前立腺がん治療の現場より

高齢化社会の現在において、がん死者数は年間約37万人、死亡原因の約3割に及んでいます。前立腺がんの占める割合は年々増え続け、男性がん死の臓器別にみて6位となっています。ですが、前立腺がんは早期に発見すれば治療成績の良いがんと言えます。その理由は、ホルモン療法(男性ホルモンをブロックする治療法)が発達し、著しい効果が得られているからです。

前立腺がんのホルモン療法では注射薬と内服薬を組み合わせることで、ほぼ完全に男性ホルモンをブロックすることができます。これをMAB(Maximum Androgen Blockade)療法、日本語で言えば男性ホルモン完全遮断療法といいます。高齢の患者さまや、合併疾患を持つ患者さまも大変多く、在宅医療の現場では病院からの前立腺がんの治療を引き継ぐことが増えております。病気の趨勢は採血検査でわかる、PSAという腫瘍マーカーによく反映されるので、MAB療法は自宅での治療も比較的容易といえます。

ところで、前立腺がんの治療においても、治療の進歩に伴い様々な知見がでてきました。ホルモン療法のきかなくなった患者さま(ホルモン抵抗性前立腺がん)に対する治療選択や、治療薬によってかえってがんの勢いを進めてしまうような事態(抗アンドロゲン薬除去症候群)を見極めることも大切です。更に新たな抗がん剤治療も次々に開発されており優れた効果を発揮しています。つまり、前立腺がんの患者様の多様な状況に合わせ、多様な治療法を適切に判断し実行することが訪問診療の場でも求められているのです。

私は泌尿器科専門医ですので、在宅の現場でもこのようなことに注意を払い治療を進めるように心がけています。先日もMAB療法を続けているのに関わらずPSAが上昇している患者さまに、抗アンドロゲン薬を中止とすることで速やかにPSAの低下を確認するといったことがありました(抗アンドロゲン除去症候群)。ささやかな出来事ではありますが、患者さんに余分な投薬をせず、またがんの趨勢をコントロールすることが出来たと思います。私は在宅医療の現場こそ各科の様々な専門性が非常に重要になってくると考えており、今後も在宅医療の現場で「泌尿器科」の専門性を生かせればと考えております。